災害とトイレ対策

1.災害時のトイレの実情
2.災害時のトイレ問題
3.国、自治体(都道府県、市町村)の対策
4.災害規模と災害用トイレの選び方
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ここ数年で起きている様々な自然災害。私たちは報道(映像)により現場の過酷な状況を知ることができます。 しかし、災害時に生じる数々の問題の中で取り上げられることが少なく周知されていないのが「トイレ問題」です。

1.災害時のトイレの実情

大規模な災害直後に被災者にとって最も必要なものは何でしょうか? 水、食料、毛布、と答える方が多いと思います。被災者の支援で「飲食」「睡眠」の確保が優先事項と思われがちですが、まず1番に求められること、対応しなければならないことは「排泄」つまり「トイレ」なのです。

Q.地震発生後最初にトイレに行きたいと感じた時間はどのくらいですか?

平成28年の熊本地震の被災者へのアンケート(引用文献※1)では「地震発生後最初にトイレに行きたいと感じた時間はどのくらいですか?」との質問 に対し、発災後3時間以内は39%、6時間以内となると73%という数字が出ています。         

引用文献※1:平成28年熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」結果報告/特定非営利活動法人日本トイレ研究所対象:平成28年熊本地震被災者のうち、災害仮設住宅に居住する世帯有効回答数:234名

また「災害避難所」をテーマに被災者を対象にしたアンケート(引用文献※2)では「避難所で過ごす中で困ったこと」は59.4%「避難所で整えて欲しいもの」は68.8%で、どちらも第1位は「トイレ」でした。避難所での問題としてプライバシーの確保がよく話題となりますが、そのプライバシーの確保はいづれの質問においても第2位。避難所で1番の問題が「トイレ」であるという実情がわかります。

Q.あなたが避難所で過ごす中で困ったことについて当てはまるものを全てお答えください。(複数回答)【n-500】

Q.あなたが避難所の施設で整えて欲しいと思うものについて当てはまるものを全てお答えください。(複数回答)【n-500】 

引用文献※2:「災害時の避難所に関する調査」/株式会社ネオマーケティング対象:5年以内に被災によって避難所に宿泊された経験のある全国の20~69歳の男女 有効回答数:500名
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「排泄に待った無し!」

被災者の方々の体験談やアンケートは、災害時のトイレの実情を知る上で非常に貴重で重要な情報です。また災害時のトイレ環境は特に女性にとって厳しい状況であることが分かります。

まず災害時のトイレ問題の実情を知ること。そして災害時にはトイレが必須だという意識を持つこと。そして事前の備え「トイレの備蓄」がいかに重要かを理解してください。

2.災害時のトイレ問題

-1・水洗トイレは使用できない

災害の種類や規模にもよりますが特に震災の場合は、断水や停電そして下水道や浄化槽の損壊により多くの水洗トイレが使えなくなります。無視して使用すれば、便器はあっという間に大小便で一杯となり衛生環境が悪化し感染症の温床となります。

-2・仮設トイレはすぐ届かない 

前述の平成28年の熊本地震の被災者へのアンケート(引用文献※3)で「仮設トイレが避難所に最初に設置されたのはいつですか?」との質問に対し、災害当日に届いたという回答は僅か7%でした。約90%に達したのは発災から8日後です。災害による交通機関の障害や規制、特に道路の寸断は致命的で物資配送が不可能となるため設置に日数を要したのです。私たちは仮設トイレはすぐに配備されると思いがちですが、アンケート結果から分かるようにトイレはすぐには届きません。

また、幸いに物資配送に影響がなかった場合でも、供給される仮設トイレは建設現場を主目的として開発されたものが多く、洋式が少ない、狭い、暗い、施錠が特殊など、子どもやお年寄りまで様々な人が使用する避難所トイレとしてふさわしくありません。被災者のことを考えた災害用トイレの整備が求められます。

引用文献※3:平成28年熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」結果報告/特定非営利活動法人日本トイレ研究所 対象:平成28年熊本地震被災者のうち、災害仮設住宅に居住する世帯 有効回答数:234名

-3・トイレに行きたくない

汚い、暗い、トイレの数が少ない、トイレまで距離がある等、トイレの環境が不快・不便であるとトイレに行く回数を減らしたくなります。そのために飲食を控えるようになりその結果、脱水症状になったり慢性疾患が悪化するなどして体調を崩したり、エコノミークラス症候群や脳梗塞、心筋梗塞で命を落とすこともあり「災害関連死」という二次被害につながります。災害関連死は災害による直接被害の3倍ともいわれており、トイレの充実がその解決策として最も優先されるべき課題と言われています。

このように災害時の「トイレ」は人命に係る重要な位置づけとして対策に取り組むべき問題です。国や自治体(都道府県、市町村)は、過去の災害の経験からトイレ問題にどのように取り組んでいるのでしょうか?

3.国、自治体(都道府県、市町村)の対策

-1・災害用トイレの備蓄

発災直後の3日間は「自助・共助によるトイレの備蓄」が国の基本的方針です。

「国」は「トイレ」の備蓄はしていません。自治体も「都道府県」は「国」と同様、計画の作成、法令に基づく実施、総合調整する立場にあり備蓄はしていませんので、防災に関する実務は「市町村」の責務となります。では「市町村」による災害用トイレは整備されているのでしょうか?「市町村」の指定避難所のトイレの設備状況のアンケート調査(引用文献※4)によると、トイレの必要数を把握しているかという質問に対し、市町村556の内7割の372が「いいえ」と回答しています。必要数の把握がされていないということは、つまり市町村の7割でトイレ対策がされていないということであり、憂慮すべき結果です。引用文献※4農業集落排水の水害対応に関するアンケート調査/一般社団法人地域環境資源センター

-2・災害時に必要とされるトイレの数

トイレの必要備蓄数   

政府の地震調査委員会は、今後30年以内の地震発生確率として首都直下を「約70%」と予測しており、南海トラフにおいては今後40年以内にマグニチュード8~9級の地震発生率を前年の「80~90%」から「90%程度」に引き上げて、今年2022年1月に公表したばかりです。 地震発生確率の数値の高さと「トイレの必要備蓄数(引用文献※5)」はかけ離れた状況であることがわかります。                                               引用文献※5「災害用トイレの備蓄に関する調査から」 2017年1月/一般社団法人日本トイレ協会

また首都直下地震緊急対策区域(10都道府県の市区町村)の人口約4,700万人を前提にした災害直後の被害想定は、上水道が最大で約1,440万人(全体の約3割)が断水し、下水道は最大で約150万人が利用困難になるとされており、ほとんどの地域で断水状況、及び利用支障が解消されるのは発災から約1ヶ月とされています。(「ライフライン被害と復旧の見通し(引用文献※6)」)何も準備しなければ、この途方もない数字がトイレを使用できない人数と期間になってしまいます。

ライフライン被害と復旧の見通し  (上水道と下水道)
上水道 下水道
断水人口 断水率 支障人口 機能支障率
被災直後 約14,440,000人 31% 約1,499,000人 4%
被災1日後 約13,545,000人 29% 約1,499,000人 4%
被災1週間後 約8,516,000人 18% 約1,199,000人 3%
被災1ケ月後 約1,402,000人 03% 約50,000人

引用文献※6「首都直下地震の被害想定と対策について」 ~人的・物的被害(定量的な被害)~                 平成25年12月/中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ

災害時には上下水道などのライフラインにも被害や影響があり、避難所が開設されれば、し尿処理、清掃、臭気対策などについて即座に対応を迫られることになります。災害時における避難所等のトイレ対策は避難者の健康管理はもとより避難所の衛生対策を進める上でも重要な課題です。にもかかわらず多くの自治体では、電気・ガス・上水道などのライフラインについては具体的な対策が講じられているのですが、トイレ対策については文言だけで具体的な対策・訓練が行われていません。これが国民が頼みの綱としている国や自治体の現状です。

自助としての備えはどうでしょうか?                                     災害用トイレを備蓄している人の割合(引用文献※7)は、2017年で15.5%、2020年で19.5%という低い数値です。5年間でわずか4%増という備蓄率に留まっています。

引用文献※7「災害用トイレの備蓄に関する調査から」 2017年1月/一般社団法人日本トイレ協会

4災害規模と災害用トイレの選び方

-1・災害用トイレのカテゴリー

現在、国は災害用トイレを3つに分類し推奨しています。

  • ①携帯トイレ:既存の洋式便器等に便袋(し尿をためるための袋)を取り付けるトイレ
    簡易トイレ:簡易便器と便袋がセットのトイレ
  • ②仮設トイレ:工事現場やイベント会場等で使用されている完成型トイレ(組立型もあります。)
  • ③マンホールトイレ:マンホールを利用するトイレ

-2・各種災害用トイレの特長

①携帯トイレ・簡易トイレ

備蓄しておけば即使用できるという点がメリットです。便袋は可燃ゴミ扱いで処分できるものですが、災害時はゴミの回収作業に影響が出たり回収場所自体が被災する可能性もあります。保管状態によっては便袋の破損等により感染症の要因にもなりかねません。災害が長期化すると使用済みの便袋は膨大な量となりますので保管場所と処分の問題を想定し対応策を講じておく必要があります。

②仮設トイレ

仮設トイレには「完成型」と「組立型」があります。工事現場やイベント会場等で使用されている「完成型」が一般的ですが、重機無しでは簡単に動かすことが出来ませんし道路が寸断された場合は目的地に搬入したくても届けることができませんので備蓄には不向きです。災害用トイレとしては「組立型」の方が適していますが、組立に時間を要した、組立が大変で放置されていた、また保管期間中に素材が錆びてしまい必要時に使えなかったなど、被災者からは実用面での問題も指摘されています。

③マンホールトイレ

災害時でも普段のトイレにより近い環境を維持できる点がメリットですが、便器の囲い(テント等)を別途用意する必要があります。マンホールトイレ設置を検討する際に知っておきたいポイントとしては、下水道設備に被害が無いことが確認されて初めてマンホールの蓋の鍵を開けマンホールトイレを設置するので使用開始までに時間を要すること、使用が開始できても排泄物が溜まらないように水を流すので上下水道設備が破損した場合は別の水源の確保が必要となること、また私有地内の枝管に設置した場合、災害復旧後に清掃が必要となるためメンテナンス費用がかかることなどがあげられます。

-3・なぜ「ほぼ紙トイレ」なのか

災害用トイレそれぞれの特長を理解し併用して備蓄しておくことができれば、災害規模、また発災後の時間の経過に応じて使い分けが可能となります。しかし何種類も備蓄しておくことは現実的に難しいかもしれません。

インフラ設備が全壊する規模の災害を想定した場合、発災直後からすぐ使用できるトイレは必需です。「ほぼ紙トイレ」は使用想定人数から必要数を算出して備蓄することにより、インフラが復旧する目安とされる期間を単体(他の災害用トイレとの併用の必要なく)で凌ぐことができます。

被災された方、自衛隊など救援側の方、ボランティアの方など災害時のトイレの実情を知る皆様からお聞きしたトイレの問題点の1つ1つを改善した内容が「ほぼ紙トイレ」の特長となっています。

ほぼ紙トイレの特長

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災害時のトイレ問題を解決するほぼ紙トイレ!新型仮設トイレ登場 (kawahara-giken.com)

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「排泄」は人間の生理現象です。いかなる状況下でも止めることはできません。日本のトイレは世界一の快適性を備えているといっても過言ではないでしょう。このようなトイレ環境で排泄できることが当たり前の私たちだからこそ、災害時を想定し、排泄を意識し、災害用トイレを備蓄することで心身を守りましょう。